資料の解説

木谷文庫について

木谷文庫は駒場図書館で所蔵する木谷蓬吟氏旧蔵の資料である。
木谷蓬吟氏(1877-1950)は本名正之助、明治期を代表する浄瑠璃太夫五代目竹本弥太夫(1837-1906本名:木谷傳次郎)の次男で、大正・昭和期の演劇評論家・浄瑠璃研究家。
大正11(1922)年から「大近松全集」を編集刊行した。

 

(木谷文庫の概要)

  • 五代目竹本弥太夫の日記類 78点
  • 五代目竹本弥太夫、およびその師匠の三代目竹本長門太夫あての書簡類 89点
  • 浄瑠璃産業仲間関係史料 4点
  • 軸物など(五代目竹本弥太夫、三代目竹本長門太夫筆の書画) 8点
  • 「竹本筑後掾門弟教訓並連盟状」と竹本義太夫の肖像画など 箱を含めて8点
  • 浄瑠璃丸本※類 71点

※丸本:義太夫(ぎだゆう)節の一曲全部の詞章を収めた版本のこと

参考文献
神田由築 教養学部図書館所蔵木谷文庫の紹介(学内所蔵特殊コレクションシリーズ No.8)図書館の窓 Vol.39 No.4 p.43-47 2000.8

 

各コレクションの解説等

竹本筑後掾肖像

 義太夫節の開祖である竹本義太夫(筑後掾)を描いている。絵師、制作年代ともに未詳。竹本義太夫は慶安四年(1651)に生まれ、正徳四年(1714)に64歳で没した。大坂の井上播磨掾の高弟清水理兵衛に入門し、京都の宇治加賀掾の一座にも出演、雌伏の時を経て貞享元年(1684)に大坂道頓堀の竹本座を創設した。元禄11年(1698)正月以前に受領(名誉称号として朝廷から国名官名の名乗りを許される)して、竹本筑後掾と名乗るが、本作はそれ以降の姿であろうと推察されている。宝永元年(1704)冬に大病を克服して剃髪したとする後年の説(『増補浄瑠璃大系図』)もあるが、宝永二年の『用明天皇職人鑑』の正本挿絵には髷のある筑後掾の姿が描かれており、剃髪時期は未詳。筑後掾一周忌追善の『豊年秋の田』正本に掲載された肖像には剃髪姿で「法名釈道喜」とある。いずれにしても剃髪姿は晩年の印象であろうかとも思われる。

 義太夫の肖像を描く画幅は、早稲田大学演劇博物館、大妻女子大学図書館、大阪歴史博物館に、それぞれ異なる姿を描くものが収蔵されている。それらの中でも本作は、朗々たる大音で知られた義太夫の迫力ある風貌をもっともよく伝えるものと評価されている。

 白扇を構えた語り姿は、他の絵像にも共通する。語る本を置いている台が、見台というにはあまりに簡便な作りで、九枚笹の定紋はついているものの、舞台で出語りする際に用いたものとは考えにくい。京都で義太夫がその一座に属していたこともある宇治加賀掾については、京都国立博物館に似顔を模した語り姿の木彫像があり、その見台と比しても簡便といえる。なお、加賀掾木像では、見台の上の床本も正確な本文を記したものが備わるが、本作では詞章は記されておらず白紙となっている。肖像を模写した人物の興味がそこにはなかったというべきか、もともと記されていなかったかは分からない。

 本作は「鳥川庵」所蔵のものを「応呼堂笑山」が模写した旨が裏面に記されている。また、豊竹麓太夫旧蔵のものが安政五年に三代目竹本長門太夫の手に渡り、明治二十一年(1888)に至って四代目長門太夫を介して五代目竹本弥太夫に譲られた旨が巻柱に記されている。五代目弥太夫の次男が浄瑠璃研究者でもある木谷蓬吟であるが、その著『浄瑠璃研究書』等にも、「鳥川庵」「応呼堂笑山」が何者であるかの言及はなく、今に至るも未詳とせざるを得ない。本作は、木谷蓬吟の旧蔵にかかる浄瑠璃関係資料百六十余点からなる「木谷文庫」の内の一品として、本学駒場図書館の所蔵となっている。

(早稲田大学演劇博物館副館長 児玉竜一)

 

五世竹本彌太夫日記

題名は仮題。嘉永三(1850)年から明治三十四(1901) 年までの71冊。浄瑠璃興行記録以下日常の事項にも及び当代浄瑠璃関係者の公私の生活記録。

形状は小型大福帳型で初期の縦6cm×横14㎝から末期の縦8㎝×横15㎝まで数種の型がある。このうち65冊は、 いつ行われたかわからないが既に整理された形跡があり、 「井1 ~67(内欠番二つ)」という朱筆の番号が付されていた。これを尊重し、個別の史料に「090/1/井00」という番号を与えた。 また朱筆の番号はなかったが、これら日記と同じ棚に保管され、内容的にも日記と同類の史料7点に「井68~74」の 番号を与えた。

参考文献

  • 東京大学総合図書館;日本近世文学会 東京大学総合図書館日本近世文学会共催(昭和43年度開催)東京大学近世文学資料展 : 展示書目録付解説 1968序
  • 神田由築 教養学部図書館所蔵木谷文庫の紹介(学内所蔵特殊コレクションシリーズ No.8)図書館の窓 Vol.39 No.4 p.43-47 2000.8

 

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