府藩県制史関係

『府藩縣制史』関係資料とは、宮武外骨が著書『府藩縣制史』を編纂するにあたって、蒐集してきた幕末から明治初年にかけての資料群である。明治初年の地方の年貢皆済目録、御用留、願出書など、廃藩置県以前にわずかの間設置された府県の地方自治に関する文書や、新聞雑誌の切り抜き、メモ類など多岐にわたる資料が含まれる。新聞雑誌の切り抜きも多く、「支配階級者の記録を根拠としない特別の地方政史を作る」ことに重きを置いた宮武外骨の見識がうかがえる。
宮武外骨は、古本屋や古書展覧会にて新聞雑誌類を購入する一方で、古紙業者や地方の旧家から大量に古紙の購入または譲渡を受けている。昭和9年8月執筆の『公私月報』※1の「忘暑法としての紙屑撰り 數千枚の珍資料獲得」には、古紙業者から購入した数十冊の書類を一枚一枚めくって必要な古書類の取捨を決定、廃止された県の書類や印章など明治過渡期の「珍資料」を獲得していることが記されている。このようにして集められた府藩県に関する資料は数十袋を充たすに及び、『府藩縣政史』編纂の資料として使われた。
『府藩縣制史』とは、明治政府発足期の「府藩県三治制」※2から版籍奉還と廃藩置県を経て四十七都道府県に至るまでの各府藩県で起こった史実や変遷を、新聞や雑誌の記事資料を基に随筆的に記載したものである。各々の府県の新聞雑誌の発達史を出版するのは47冊刊行という大事業となるため、まずはその総説というべき一冊を出してみる、ということで編纂されたのが本書である。昭和16年、外骨75歳での刊行であった。巻末の「取り残した資料の概目」からは、更に執筆したい項目について外骨の意欲が窺えるが、続巻として実現することはなかった。

※1『公私月報』とは、宮武外骨が明治文庫在任中の昭和5年から昭和15年にかけて発行した、公私にわたる活動の記録である。明治文庫初期の資料蒐集活動や外骨による資料の解説が詳細に記されている。
※2「府藩県三治制」とは、廃藩置県前に行われた明治政府の地方統治制度。


(参考文献)

  • 宮武外骨著 ; 谷沢永一, 吉野孝雄編, 1988, 『すきなみち ; 府藩縣制史 ; 震災畫報(宮武外骨著作集 3)』河出書房新社.(ISBN 4309724531)
  • 宮武 外骨,『公私月報』.
  • 吉野 孝雄, 1995, 「宮武外骨略年譜」『宮武外骨研究 (宮武外骨此中にあり : 雑誌集成 26)』ゆまに書房. (ISBN 4896688813)